ハレの日にいく、近所の居酒屋がある。
新鮮な魚介と全国から取寄せたこだわりの日本酒が自慢のお店だ。
旬の食材をつかった創作料理も秀逸。
前回行った時に食したのは、あさりと春の野菜のマリネ。
ウドやインゲン豆のマリネに、たっぷりのあさり。
さっぱりとした味に、ピリリとスパイスが効き、ビールがすすんだ。
おしいものを食べて、お酒をのんで、おしゃべりをする。
何百回も繰り返しているこの日常の行為が、わたしはすごく大好きだ。
この日も気分よく、このお店のシメの定番
まかない海鮮丼を頼んだ。
あまじょっぱいタレにつかった刺身の切れ端が、これでもかというくらいご飯にのったどんぶり。
店主が威勢のいい声で運んできた。はじめて食べるわけではないのに、期待が膨らむ。
早速一口いただくと…
とんでもなく違和感を覚えた。
海鮮丼の海鮮はいつものようにパーフェクトな味なのに、
丼の方が丼になりきっていないのだ。
わたしはその違和感の原因を探るために、ごはんだけを箸でつまみ、口にいれてみた。
するとどうだろう、ごはんは一口噛むだけでその形状を変え、ゲル状態に変わった。
そのごはんはノリだった。昔、小学生の時、図画工作の時間に使った、
手で塗るタイプのノリそのものだった。味は無かった。
「どうしたんだ店主」と。心の中で叫んだが、実際には、お店にそのごはんについて言及はしなかった。
その行為が正しかったかは、未だに分からない。
他のお客さんのことも考えて、一言いった方がよかったのでは? という思いも残っている。
この居酒屋のノリごはん事件を、どう自分で消化したらいいか分からず、言葉にしてみた。
書いていたら、「弘法にも筆の誤り」ということわざが頭に浮かんだ。
おいしい店がいつもおいしい料理を提供してくれるとは限らない。
おいしいものとの出会いは、あたりまえに手に入るわけではない。
食材に、生産者に、料理人に感謝して、食と向き合おう。
つろこ